[短]花びらが落ちる瞬間
手を握った伸ちゃんが不意に立ち止まる。
『…美紀』
『どうしたの?』
横を振り向くと、いつになく真面目な瞳で私を見下ろしていた。
『…嫌だったら言って』
と、自由を奪われた体は伸ちゃんの腕の中でギュッと締め付けられていた。
足元には落ちた無数の花びらたち。
ドキンッ…。
ドキンッ…。
耳の奥に届く伸ちゃんの微かな吐息。
ドキンッ、ドキンッ…。
どうにかなってしまいそうな激しく打ち付ける私の心臓。
少し離れた体と体。
見上げれば伸ちゃんの真剣な眼差しがそこにあって。
ゆっくりと近づく伸ちゃんの顔。
ギュッと目を閉じる私。
軽く重なった唇に。
息が止まる。
離れた唇はすぐに塞がれて、今度はずっと長いキス。
力が抜けそうになった体を力強く支える伸ちゃんの腕。
眩暈さえ覚えた初めて交わしたキスも…。
…あのベンチの前。