[短]花びらが落ちる瞬間

『明日…休みだし…どっか行かない?』

部室から覗かせた伸ちゃんの照れた顔。


初めてのデートに期待で胸を弾ませた。


映画を見たあとランチをして、あてもなく街をぶらついて…。

それがいつものデートコース。


それが5回繰り返した帰り道。

『うち…寄ってかない?』


初めて入った伸ちゃんのさっぱりとした部屋。

『あいつ、バカだよなほんと』

『あははっ。面白いよね』

ベッドに腰をかけ、クラスメートのたわいもない2人の会話。


ぎこちない伸ちゃん。

落ち着きない私。


不意に引き寄せられた体が強張る。

不意に塞がれた唇に走る電流。

長くて長くて、何度も重なった唇。

絡まる舌に、漏れる吐息。

うるさく鳴り止まない脈動。

ふわっと柔らかい布団に背中が包まれた。

天井の模様の中に浮かぶ耳まで赤くなった伸ちゃんは何とも言えないような顔をしていた。


必要以上に入れていた肩の力を抜いた瞬間、静かに重なった唇。



交わる吐息に、初めて触れた体温は温かくて、嬉しくて涙が零れた。


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