VS~Honey~



「さて、俺そろそろ帰るわ」


一時間ほどで龍太郎が帰りの支度を始める。結局何しにきたのだろう。
玄関まで見送ると突然あっ、と声をあげた。


「そうだ。晴紀、“kiss me”の楽譜あったら貸して」

「なんで?」


その曲はMarsのアルバムに入っている数少ないバンド曲だ。
Mars はコンサートでのみ、時々バンドをする。ちなみに俺はギターで龍太郎はピアノだ。
しかしこの曲は今度のコンサートで歌う予定はなかったはずだ。
なんで楽譜なんか必用なのだろうか。そもそも俺の持っている楽譜はギター用である。
府に落ちず、首を傾げるが龍太郎は早く取りに行けと急かす。


「いいから。持ってきて。“kiss me”」


仕方ねぇな。

俺は二人を玄関に残して部屋にむかった。




< 167 / 211 >

この作品をシェア

pagetop