VS~Honey~
「さて、俺そろそろ帰るわ」
一時間ほどで龍太郎が帰りの支度を始める。結局何しにきたのだろう。
玄関まで見送ると突然あっ、と声をあげた。
「そうだ。晴紀、“kiss me”の楽譜あったら貸して」
「なんで?」
その曲はMarsのアルバムに入っている数少ないバンド曲だ。
Mars はコンサートでのみ、時々バンドをする。ちなみに俺はギターで龍太郎はピアノだ。
しかしこの曲は今度のコンサートで歌う予定はなかったはずだ。
なんで楽譜なんか必用なのだろうか。そもそも俺の持っている楽譜はギター用である。
府に落ちず、首を傾げるが龍太郎は早く取りに行けと急かす。
「いいから。持ってきて。“kiss me”」
仕方ねぇな。
俺は二人を玄関に残して部屋にむかった。