VS~Honey~
しかもニヤニヤと。
大抵、こういう顔のときはろくなことがない。
「何?」
スタッフがまだブースの外に居るため、表のまま、にこやかに聞く。
すると陸は小さな声で笑いながら言った。
「晴紀のやめられないこと。美紗ちゃんをからかうこと」
そしてニッと笑う。
その笑顔で察した。こいつ、昼間、準備室を出たように見せかけて覗いていたな。
「え? 美紗って確か晴紀と住ん「鉄ちゃんっ!」
俺は鉄平を睨んだ。
その続きはここではまずい。
いくらブースに三人しかおらず、マイクも切って小声で話しているとはいえ。
迂闊なことは言えないのだ。
「悪い悪い。でも何? からかうってことは、その子、お前の本性知ってんだ?」
鉄平は声を小さめにして聞いてきた。
本性とか人聞き悪い。素だと言ってほしいね。
「あぁ、まぁ」
「すっごい意地悪してんだよ。ひどいっしょ」
「てめぇ、やっぱり昼間の見てただろっ」
小声で陸に凄むが、それもいつものことで陸はペロッと舌をだして悪びれるつもりはない。
ああ、やっぱりこいつに言わなきゃよかった。
メンバーには、というか、陸とリーダーの鉄ちゃんには春から大家の娘が帰ってくることをざっくりと話していたのだ。
今さらながら人選ミスに少し後悔してる。