VS~Honey~
「資料室の片付けは終わったのか?」
ガチャガチャ!
おもむろに発せられた言葉に動揺して持っていたコップが手から滑り落ちそうになる。
危ない危ない。うっかり落とすところだった。
ホッとして顔を上げると晴紀がいつの間にか隣に来ていた。
「あ、いや、まだだよ。でも明日も手伝うんだ」
「先生と二人で?」
二人と聞いて一瞬顔が熱くなる。
資料室での事を思い出してしまったのだ。
先生はきっと助けるためにああしただけだろうと思うようにしていたが、でも未だにお腹に回った手の暖かさを覚えている。
恥ずかしさと、幾ばくかの怖さと。
それは先生が知らない人に見えたからだ。
資料室でのことを思い出していると、晴紀はなにかを感じたように目を細めた。
「何かあった?」
「ない、よ」
「ふぅ~ん?」
その目は信じていない。
なんでそんな疑うのか。晴紀には関係ないのに。
でも何だろう。私も何で晴紀の顔が見れないのだろう。
何でこんなにも後ろめたい気持ちになるのだろうか……。
返事をしない私の手からコップをとり、晴紀は黙って自分でコーヒーを入れる。
そして、一度チラリとこちらを見てそのまま階段を上がって自分の部屋へと戻ってしまった。