VS~Honey~

翌日。

放課後、帰りの支度をしていると人もまばらな教室に陸くんがひょこっと顔を出した。
そしてこちらに気がつくと笑ってトコトコとやって来る。


「美紗ちゃん」

「陸くん。どうしたの?」

「うん、あのさ、ちょっといいかな?」

「え? 私?」


隣の席を見ると、晴紀は鞄を残して姿が見えない。
なんで陸に呼ばれたかわからないが、後について行くと屋上へ連れていかれた。

屋上はだれもいなく、気持ち良い風が吹いている。
風の心地よさに一日の授業の疲れを癒していると、陸はフェンスに寄りかかりながら探るような目線を寄越した。


「晴紀となんかあった?」

「え?」


晴紀と?
どういう意味かわからず首を傾げると陸は「実はさ」と苦笑した。


「今日、俺ら朝から仕事だったんだけど、なんかあいつずっとイライラしててさ。あいつって知っていると思うけど、現場でも表の顔は崩さないんだけと、今日は珍しく、裏の顔がチラチラ見えたんだ」


そういえば、今日は仕事だったようで朝にはすでに家にはいなかった。
授業も午後の五限目になってから参加している。

しかし、学校では(家でもだが)大して会話はしない。
今日だってほとんど話はしていなかった。
だから陸のいう、何かがすぐに浮かばない。すぐに浮かばないと言うことは大したことはなかったとおもうのだけど。


「別に何も……」

「んー、じゃぁ喧嘩とかは?」


喧嘩? いつもからかわれるけど喧嘩まではしたことないはずだ。
軽い口喧嘩はあってもあんなの喧嘩に入らないだろう。


「喧嘩らしいことはした記憶はないけど。そもそも不機嫌の理由が私とは限らないんじゃない?」


ある意味言いがかりだ。
しかし、陸は首を降る。


「そうかもしれないけど、でも思い当たるのは美紗ちゃんだけなんだ」


そんなこと言っても。
そして、あっ、と思い出した。

「昨日の夜も少し変だったかも」

「どういうこと?」

「帰ってきて、資料室の掃除のことを聞かれたの。そしたら何か、黙って部屋戻っていっちゃった」

「へぇ~。掃除って斎藤先生との?」

「そうそう。二人でやったから時間かかったんだよ」

「先生と二人ねぇ……」

「なに?」

「ん? いや。なんとなくわかったかも。もう
大丈夫。ありがとう~」


そう言ってさっさと帰ってしまった陸。
自己解決したようだか、こちらはさっぱり意味がわからない。
何がわかったというのだろうか?



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