VS~Honey~
「はい。わかりました。こちらこそ。えぇ、ではまた。失礼します」
佐々木晴紀は笑顔で電話を切った。
はい、と携帯を私に返す。
ちなみにさっきの爽やかな笑顔はもうない。
なにこの切り替えの早さ。
「説明してよ」
私は彼の服をつかんで説明を求めた。
電話も切られて、私だけが何も理解できてない。
なんだかちょっと悔しかった。
「つまり、相川家がアメリカに行ってる間、俺ん家がここ借りたの」
「えっ、それ知らない」
そんなの初耳だ。
両親はそんなこと一言も言ってなかった。
「まぁ、そうは言っても、俺の親も仕事でほとんど海外だから実際住んでるのは俺ひとりだけど」
「えっ!」
それって……。
思わずジリッと後ろに下がる。
「安心しろ。こんだけ家が広いし、俺だっていろいろ忙しい」
佐々木晴紀は私の考えを読んだようで、呆れたような冷たい目線を送ってきた。
顔が赤くなる。
だって普通は警戒するでしょう。
一応は年頃の男女なんだから。
「あ、おばさんが娘をよろしくって言ってた」
開いた口が塞がらない。
何を考えてるんだ。あの母は。年頃の娘が心配にはならないの!?
怒りを通りこして呆れてくる。
ああ、それとも自分の娘ならそんな心配も起きないってこと?
それはそれでひどい話だ。
「ぷっ。お前、考えてることわかりやすいな」
晴紀はクククッと笑う。
私は恥ずかしくなって顔を背けた。
顔に出やすいとはよく言われることだけど、初対面の人に言われるなんて。