VS~Honey~
手にしていた資料をいとも簡単に棚へ戻してくれる。
「あ、ありがとうございます」
「その資料で最後です」
振り替えると、先生が私を覗き込む。
距離が近いと私は少し後ずさるが、後ろは棚で動けなかった。
つまり、私は棚と先生に挟まれてしまっていたのだ。
なんだこれは。どういうことだろう。
この状況に背中に冷や汗がスッと流れる。
「どいてもらえますか?」
「嫌だと言ったら?」
「え?」
先生の目が意地悪に笑う。
穏やかで優しい斎藤先生の初めて見る表情だった。
何だろう。
怖い。
「せ、先生? 冗談はやめて帰りましょうよ」
私は感じた怖さを誤魔化すように先生の脇をすり抜けようとしたが、その腕をつかまれてしまった。
ハッとして顔を上げたとたん、チャイムがなった。
先生はチラッと自分の時計を見る。
つられて壁の時計に目をやると五時半を回っており、最終下校チャイムが鳴ったのだとわかる。
「どうやら僕の勤務時間は終わったようです。先生の時間は終わりです」
「は? どういう……?」
先生に向き直った瞬間、ふわっと体が包まれた。