VS~Honey~
聞き覚えのある声が部屋に響いた。
姿は見えなくても、誰だかすぐにわかる。
でもなんでここに、この人がいるのだろう。
「……邪魔はいけませんね。佐々木くん」
「嫌がっていますよ。その手をどかして下さい」
「嫌だといったら?」
「学校側に報告します」
「……」
先生は黙って私を離す。
私は下を向いたまま、腕を突っ張るようにして体を離し、よろけるように先生と距離を保つ。
そして、足元に影ができ、顔をあげると晴紀の背中が目の前にあった。
「これは問題ですよ、先生。なんなら本当に学校側へ報告しましょうか?」
「それは困ります。でも僕は本気です」
「では、教師をお辞めになることですね。そしたら自由ですよ」
「それは難しいな……」
晴紀の淡々とした言葉に先生は自嘲するように苦笑した。
「辞めるわけにいかないなら、問題は起こさないことですね」
「そうですね。しかし、僕は本気だと覚えておいてください」
先生は私をチラッと見て、すまなそうに笑った。
どう反応していいかわからず、目をそらし晴紀に隠れるよう身を小さくする。
そして「ではまた明日」と先生は資料室を出て行った。