超短編 『当選』
ある日、別居中の妻が訪ねてきた。

「ごめんなさいね。私、あなたに許可も得ないで応募してしまったの。それが当選するなんて」


俺は、涙する妻の肩を抱いて、優しく言った。


「謝る必要はどこにもない。俺自身が望んでいた事なのだから」

「でも、あなたは当選してしまったのよ。それでよかったの?」

「ああ、当選してよかったよ。そうだ、正式に離婚しよう。君が望んでいただろう」

「本当に離婚してくれるの?ありがとう、あなた」

「君は離婚したいがために、応募したのだろう。わかっていたよ」


妻が応募した本当の理由は、それなのだ。

もし私が当選すれば、離婚できるかもしれない。

離婚できないにしても、私との縁が切れる事がわかっているのだ。


そう、当選すれば何物でも手に入れる事が出来るが、すべてを失う事でもあるのだ。

当然、当選した時点ですべてを失う事、妻を失う事もわかっていた。

その代わり何でも手に入るようになる。


それが当選者の定めなのだ。
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