幻想
それからも真也は、何度も缶を振った。

ガラゴロ重い音をたてていた缶は、今ではカランと軽い音をたてるばかり。

大分中身が乏しくなってきた。

緑のドロップでは動物園へ行った。

白いドロップの時には、図書館で勉強した。

他にも数え切れないくらい真也は、16歳を堪能した。

そのすべての場面で、すぐ横にゆりがいた。

もはやゆりのいない現実には、何の未練もなくなっていた。

ドロップの舐めすぎで、上あごがヒリヒリと痛む。

それでも真也は、まだ舐め足りないと思った。

まだだ。

まだ分からない。

肝心なことが思い出せていない。

「レイに会ったらまたドロップを貰えるだろうか」

その時ふっと思い付いた。

もしかしたら、レイはゆりなのかも知れない。

しかしすぐに否定した。

そんなはずはない。

もしそうなら俺と同じ年齢のはずだ。

夢の中のゆりと同じ高校生である訳ないじゃないか。

真也は缶を振った。

カラン。

軽い音がして、ついに最後の一粒が転がり出た。

空になった缶は、手の中で消えてしまいそうなほどに存在感がなかった。

真也はためらった。

これで最後。

赤いドロップをじっと見つめる。

真也はぎゅっときつく目を閉じると、ドロップを口に含んだ。
< 13 / 18 >

この作品をシェア

pagetop