幻想

赤いドロップ

正面から風が襲って来る。

真也はバイクに乗っていた。

腰にまわされた白くてしなやかな両腕。

ゆりだ。

ゆりが後ろに乗っている。

真っ青な空。

左手に広がる海から磯の香りが漂ってくる。

おだやかな風景。

それなのに。

真也の頭の中では真っ赤な警告ランプが点滅していた。

訳も分からない不安と恐怖で胸が押し潰されそうだ。

ダメだ。

とてもこのまま走り続けていられない。

「一旦とめるよ」

真也は風に負けないように大声で叫んだ。

ゆりが何か応えたようだが聞き取れなかった。

一時。

ほんの一時、ゆりの言葉を理解しようとして、注意が分散した。

「危ない!!」

ゆりの悲鳴がきこえた。

今度はちゃんと聞き取れた、と真也は思った。

すぐ目の前にトラックが迫っていた。

運転手の恐怖に満ちた形相が目に焼き付いた。

そして。

二人は離れ離れになって空中を舞った。
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