幻想
「そんなことないってば!」

少し強めの口調だった。

真也は驚いて、一歩後ろに退いた。

ゆりははっとして、

「ごめん。…ホント言うとすっごく悔しかったの」

「…」

「でも今は違う。私の分までしんには幸せになってほしい。そう思えるようになったの」

「ゆり…」

「なのにしんったら、最近ちっとも幸せそうじゃないんだもの」

不満げに口を尖らせるゆり。

「だから、しんにカツを入れに来たのよ」

そう言って、両手を腰に当てて反り返った。

「迷惑かけます…」

真也はわざと真面目くさった顔をした。

少しの間があって、二人はくすくす笑い出した。

「その調子」

と、ゆりが励ました。

「あんまり陰気な顔ばっかりしてると、私の世界に引き込んじゃうわよ」

「俺はそれでもいいんだけどな」

「冗談よ」

ゆりは、少しさみしそうに微笑んだ。
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