幻想

黄色いドロップ

「しん!」

誰かが呼んでいる。

懐かしい呼び方だ。

こんな風に俺を呼ぶのは…。

「ゆり」

真也は目を開けた。

「あーびっくりした」

「どうしたのさ」

言いながら真也は何か違和感を覚えた。

「しんったら、急に何言っても反応しなくなっちゃうんだもん」

「そうだった?」

「どうせ他の女の子のことでも考えていたんじゃないの?」

「ち、違うよ」

「どもるところがますます怪しい」

「…」

真也は再び黙り込んだ。

ふと気づいたのだ。

さっきから感じていた違和感の正体に。

真也は学生服を着ていた。

慌てて髪に手を伸ばす。

ふさふさしている!

毎朝鏡の前で、少しでも頭皮の露出度を下げようと必死になっていたはずなのに。

「…ねえ、俺いくつに見える?」

「はあ?」

「50歳に見える?」

「何言ってんの!」

「いくつに見える?」

真也が真面目な顔でそう繰り返したので、ゆりは少し気味悪そうな顔をした。

でも真面目に返してくれた。

「しんは16歳だよ。私と同じ16歳」

予想していたことではあったが、真也はすぐには声が出なかった。

「もう! 今日のしんは本当におかしいよ」

「ああ…」

「大丈夫なの?」

「…うん」

考えてみれば、目の前にいるゆりは、俺の高校生の頃の彼女だ。

卒業したら絶対結婚しよう、って約束していたっけ。

でも卒業以来会った記憶はない。

なせだろう?

真也は、自分が何か大切なことを忘れているような気がした。

でも思い出せない。

もどかしさに真也は身をよじった。

「今日はもう帰る?」

ゆりが心配そうに顔を覗き込んで来た。

そんなゆりを真也は思い切り抱きしめた。

なぜか、そうせずにはいられなかったのだ。

腕の中で、ゆりが驚いて固くした体を、ゆっくりと弛緩させていくのが感じられた。

真也はゆっくりと目をつむった。

そのまま意識も薄れていった。
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