彼の元・彼女の元へ
「そうね、ひとつを除いては、生活するだけの全てそろってるわね。」

「ひとつを除いてって?」引っ掛かる言い回しが気になって直ぐ様問いかけるが「どうだっていいじゃないそんなこと…」

と、取り合わない。
なぜかその物言いが気にかかり尚も食いつく。

「これだけの船にたったひとつない物って…なんだろう?気になるなぁ。教えてよ。」


「イヤよ教えてあげない。そのうちわかるわよ。」
そうあっさりと言う彼女の横顔にどこか狂気を感じた私はこの質問の答えを諦めた。

「お金持ちなんだね。」

「全然!」

「そんな謙遜しなくてもいいじゃん!これだけの船のオーナーなんだからさ!」

今度は両手を広げ大げさに言ってみる。

「よくさ、若いのにすごい高級車を派手に改造してる子とかいるでしょ?」

「ああ!いるね!そう言うやつ!」

よし今度は話しにのってきたぞ!と、ことさらオーバーアクションで話しに食いつく。

「それと一緒よ。」

「どう言うこと?」

「生活の全てをこれにつぎ込んでるだけってことよ。だからほら、洒落っ気もないでしょ?」

なんて言いつつこれでもかっていうほどの深い瞳で見私を据える

「でも…充分美しいよ。」

と、ことさら真顔で言う。

「あきれた、そんな事ばっかり言ってる…一体何やってる人?」

彼女瞳が大きく見開かれる。淡い灯の下で抱く猫みたいに可愛いな…そんな事を考えながら、

「教えてあげな~い。」

なんてとぼける。

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