彼の元・彼女の元へ
「そんなに知りたい?」

「別にぃ~全然知りたくはないけど?ただ名前も知らない殿方に図々しくお食事なんてお出し出来ませんしぃご一緒するのも怖いんですものぉ~」

「……お腹減った…」

「そう!お腹減ったの~じゃあお名前はなんて言うの僕?」

「…ユー?…」

「ゆう?」

「ん?そう!やさしいの優!」

「変なの!女の子みたい…それに…なんか変な感じ…」

「どうして?」

「私は、みゆって言うの…あのね弥由って書くの…なんか語感が似てるよね!」

「みゆさんか!名前も可愛いんだね…ミィちゃんとか呼ばれてるの?」

「やめてよ仔猫じゃあるまいし!友達は…ミューって呼ぶの…なんだか自由って感じでいいでしょ!」

「そうだね!すごく解放的でイメージにぴったりだよ!じゃあ弥由さん?私もミューさんと呼ばせてもらってもよろしいでしょうか?」

これまでと打って変わって紳士然と振る舞う。

「ミューでいいよ…」

「ミューかぁ~本当に自由な感じだね!大空に飛んでいけそうだよ。」

今度はちょっと詩人になってみる。

「私は…ミューはあなたの事なんて呼んだらいい?」

不思議なものだ…名前の語感が似ているというだけで一気に心理的距離が縮まる。話し言葉もペルソナをはずし始めて素のままになりつつある。
強気ないい女の仮面の下は甘えんぼな女の子だね?
直前の会話での一人称の扱いが物語ってる。

「そうだな……権三郎なんてどうよ?」

「…つまんない…オヤジ!」

「ひ、ひどい、父さんにだってオヤジなんて言われた事ないのに…」

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