彼の元・彼女の元へ
「なにそれ?それを言うなら、父さんにも殴られた事ないのに…でしょ!まったくつまんない事ばっか言って!若い子に嫌われるよ!それになんとなく世代わかっちゃうし…致命的じゃないのそれって?」

「あら?そう?」

ちょっとしなをつくってお茶らけて返す。さらりと言われたがこれは結構効いたので動揺を誤魔化す。

「やめてよおかまっぼい!ねぇ…ユウって呼んでいいでしょ?」

上目遣いで言う姿はさっきまでの『いい女』の仮面をかぶったミューよりも生々しい色気を放っていた。
それにしても・・・『もう使うこともないだろうけど・・』って?

時々気になる言い回しをするな…
まぁ今切り出したところでおもいっきりかわされるだろうから…しばらく間をあけよう。

「ねぇ?何考えてるの?お腹空いたんでしょ?」

「あぁ、もう堪らないね」

「お湯沸いたみたいだから温かい飲み物持ってきてあげる。飲んでる間に美味しいもの作ってあげるね!」

なんて良い顔をするんだ…さっきの横顔からは考えられない。

「ありがとう。料理の腕に自信がありそうだね…」
「あるわよ~何でも作ってあげる。尾頭付きの盛り合わせだっていいわよ。でも先ずは体が温まるものからね!」

「助かるよ…今度は体の中から温めてくれるんだね?」
「…やだ!こっち見ないで…はいこれ飲んでね。」

こちらの微妙なニュアンスにもちゃんとついてくる…良い感性を持ってるね。
しかし、こんな海の真ん中で心踊る会話が楽しめるとは人生何が起こるかわからない。

そう考えるとこの大海原は人生…そしてこの船は人と人との出会いに似てるな。

悠久のうねりの中には無数に様々な船が行き交う。
出逢うも人生出逢わぬも人生。
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