彼の元・彼女の元へ
ガタガタと震えながら彼女がまくし立てる。
まるで寒さをまぎらわせるかの様に…
彼女の唇からは色気が全く消え失せ白く震えていた。
私もまた同様なのだろう。
こんな状況でなければさぞかし情熱的な唇なのだろうななんて思いがよぎる。

しかし、この儚げな女性のどこに情けなく海に沈む男の体を助け上げる力などあったのだろう?
薄い意識の中でもついそう考えてしまう程あまりにも細く美しい女性だった。
彼女はさっきまでの勢いが失せぐったりと意識を失い毛布にくるまっている。
このまま体温が奪われ続けることは明らかに危険だった。
私は冷たく眠る美しき勇者を引き寄せた。
今の私がこの命の恩人にできる事は極、限られている。
極度の疲労感に薄れていく意識の中で冷えきった体をひとつにした。
重ねた体に温もりが戻り始める前に私の意識は消え失せ深い眠りについた。

それはもう二度と目覚める事のない眠りの様だった。

こっちよ…もっとこっち

こっちに来て

でも…やっぱり来ちゃダメ…

深く落ちる様な眠りの中で私を呼ぶ声がする。




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