彼の元・彼女の元へ
私はこの声に導かれている。
この声の制止の言葉には耳も貸さずに。
今や…いや初めから求めても手の届かないとわかっていたはずなのに…
違う世の魂が何故互いを魅せてしまったのか。
途方もなく深い苦悩の中で頬に微かな温もりを感じる。
その温もりの心地良さに負けすがってしまいそうな心と体を奮い立たせ、ようやく片方の瞼を上げる。
薄く開けた瞳に白く美しい手のひらが映った。
その手は優しく私の頬を包んでいる。
次の瞬間私の半身は陸に打ち上げられた魚の様に跳ねあがった。
白き手のひらが強烈にデジャブを呼び覚ましたのだ。 「一体今度は何!?」
すがるように辺りを見回す私に手のひらの主が問いかける。
起き上がった瞬間によぎったその名を慟哭の様に叫び出すのを飲み込ませたのはやはり美しい手のひらの主だった。
「頬を触ったのがいけなかったの?」
訝しげな顔で私を見る瞳に釘付けになった。
私の言葉は飲み込まれ空気に震える事はなかった。
呆然とする私に声の主が続ける。

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