彼の元・彼女の元へ
一通り思いをぶつけ合いしばしの沈黙が訪れる。
今や麗しの人魚から猛り狂うハリケーンとなった彼女はさっきまでの私の様に伏し目がちによそを向いてしまった。
私はその背中の美しい流れに目を奪われる事を拒む様に沈黙を破る。

「すまない命を救ってもらった恩人にまだお礼も言っていなかった。本当にありがとう。」

「………。」

彼女からの返答はなくそれが私を慌てさせた。

「あの…本当に俺もすぐに気を失ったから…その…ほとんど見てないというか…」

「見たんでしょ!」

キッと鋭く振り返り刺すように言葉を放つ。
あまりの鋭さにたじろきながらもかろうじて言葉を返す。
「いや全然見てないに等しいよ薄目だったし…」

「さっきはこの世の者とは思えない程きれいだったって言ってた…」

「あぁそれは言葉の綾って言うかその…」

「嘘?嘘なの?ひどい…嘘つき!」

「嘘つき…って…嘘なんかついてないぞ!変態やら嘘つきやら、いくら命の恩人だからっていい加減にしろよな!」

「嘘じゃないの?」

「嘘なんかじゃないよ、消えそうな意識のなかでもびっくりするほどきれいで魅力的だったよ。」

「本当に?」

「本当だって!特に胸元のホクロが…」
バチーン!!

言い終わるや否や視界に電撃を帯びたような光を感じ、同時にまだ冷えた頬に強烈な衝撃を受けた。

「スケベ!変態!嘘つき!しっかり見てんじゃない!」

回避しようと懸命になっていた痛い言葉を次々と突き刺されたが、やられっぱなしではいられない。
素早く顔をあげ反論しようと荒れ狂うハリケーンを捉えて…そして言葉を失った…。

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