オレの宝物。それは君の笑顔【完】
ただひとり、正人を除いては。


「ほんとに別れるのか?」

「……そうするしかないだろ」

「北原に本当のこと話して、センパイたちが引退するまで待っててもらうっていうのは?」

「…………」


本当のことを話せば、きっと、香奈は待っていてくれるだろう。


ただひたすら、会いたい気持ちを抑えて。


だが。

誕生日に「ほんとは、寂しい。もっと、会いたい」と言って泣いた香奈。


そのときよりも長い時間、そんな気持ちを抱いたまま待たせるなんてオレにはできない。


「香奈には、本当のことは話さない」

「え?」

「もう、待たせたくないんだ」

「…………」

「……もう、香奈に寂しい想いはさせたくないんだ」


悲しいくらい爽やかな新緑の風が、2人の間を吹き抜けた。


「……そっか」


正人は静かに肯き、


「……絶対、全国、行こうぜ」


オレの背中を力強く叩いた。

< 153 / 233 >

この作品をシェア

pagetop