オレの宝物。それは君の笑顔【完】
その夜、いつものようにピアノ室の前まで来たものの、どうしてもドアを叩くことはできなかった。


エイプリルフールの時のような悲しそうな顔を見る覚悟は、まだオレにはできていなかった。


覚悟はなかなか決まらず、1週間後。


さすがに香奈もおかしいと感じ始めていたし、センパイたちもオレがなかなか練習に来なくてイライラしているという。


もうこれ以上は、引き延ばせない。


オレはついに、ピアノ室のドアを叩いた。


そして。


「オレと、別れてほしい」


香奈の顔を見ると同時に――決心が揺らぐ前に、告げた。


「……今日は……エイプリルフールじゃないよ」


香奈の顔から笑みがひいた。


「わかってる」

「……本気なの?」

「ああ」


悲しそうな瞳に見つめられて、オレは目を逸らした。

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