オレの宝物。それは君の笑顔【完】
<貴文>


柚夏子にカラフルな箱を差し出されて、オレは戸惑った。


今日はバレンタインデー。


となると、これは、……チョコ?


だけど、なんで、柚夏子がオレに?


「私、小5の時からずっと、タカのことが好きだったんだ」


真面目な顔で柚夏子が言った。


「……冗談、だろ?」

「本気だよ」

「…………」

「北原さんといる時のタカって、別人みたいだよ。

……そりゃ、北原さんは可愛いから、つき合えて有頂天になるのもわかるよ。

でも、全然、タカらしくない」


柚夏子は声を詰まらせたかと思うと、


「……タカには私の方が合ってる。私といる方が、タカらしくいられるよ」


涙をこぼした。


悔し涙は何度も見たことがあるが、柚夏子のこんな涙は初めてで、オレは思わず息をのんだ。


「私のこと、ちゃんと見て――」


柚夏子はチョコをオレに押し付けると走り去ってしまった。

< 85 / 233 >

この作品をシェア

pagetop