とろけるチョコをあなたに
 火からおろしただけでは温度が上り続けてしまうので、濡れ布巾を使い鍋底の温度を低下させてやる必要があるのだ。

 加熱を絵理に任せるのは無謀なので、説明しながら自分で作業をした。

 温度計がなかったが温度を見た目で判断する事などオレにとっては造作もない。

 火からおろし濡れ布巾で鍋底を冷やして鍋を絵理に手渡した。

「よし、これをブランデーと混ぜ合わせればいいのだな!」

 なぜかずっと装備していたゴムベラを勢いよく振り上げた。よほどお気に入りなのだろうか。

「まさかとは思うが、それで混ぜる気じゃないだろうな」

「む。駄目なのか?」

「糖度ってのは繊細なモンなんだヨォ! ゴムベラで撹拌なんぞしたら大失敗の元だボケェ!」

「申し訳ありませんッ!」

 オレが活を入れると、絵理は縮こまって謝った。

「では、どうやって混ぜたら……」

「簡単だ。糖液を静かにボウルに移したら、またボウルから鍋に移すんだ。これを何回か繰り返せば自然に混ざる」

「畏まりました」

「んじゃ、やってみろ。静かに、だぞ」

「はい」
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