シャングリラにさよならのキスを
00……雪舞うシャングリラ
俺も一人暮らしなんだよ、

そう優しく話し掛けられたのがそもそもの始まりだと思う。

中二、つまり二年前の冬。
ゆっくりふわふわ雪が舞い降りる日、制服に上着を羽織ってカーディガンをちょっとはみ出させて、でもスカートは短くしたまま、路地で膝を抱えてうずくまっていた私に彼は話かけてくれた。

「え?」
「ほたるちゃんと一緒一緒」

脳天気になははーと笑って見せる豪快さも、私と同じ一人暮らしだということも、私にはとても新鮮で。

世界が輝いたみたいだった。雪が降って空は曇ってるはずなのに、きらきらと全てが輝きだした。

「家事とか大変じゃない?」
「俺は別に? 何、手伝いに いってあげましょうかお嬢様 」
「なんか腹たつからやだっ」


言いながらも笑う。久々に心から笑えた気がした。生まれて初めて、仲間と出会えた気がした。

「ね、名前は?」
「んー、俺?」

さっきみたいに顔をくしゃっとさせつつ笑って、

「ヌエ、って呼んでよ、ああそう、あとさ」
「何?」
「面倒だから、呼び捨てていい?」

最初からすればいいじゃんか、私はそう言って笑って承諾した。

これが私の初恋。
淡い淡い、初恋。
きっとこの人が私の居場所だと思った。
理想境、シャングリラ。
まさしくそのもので。

二年後――正しくは一年と十一ヶ月後の今、

彼が私のうなじに、ナイフを突き付けるまでは。


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