スキ
「よぅ!ヨッちゃん、待たせたな」

そこにいつもと変わらない玉置が現れる。

「ヨッちゃん、さっきのメール、粋だな。さすが携帯小説家!」

寒中見舞いメールも、玉置の目にかかれば粋なものに変わってしまうらしい。

ダウンジャケットのファスナーの間からは、トレーナーに描かれた虎が顔を覗かせていて。

(そのタイガー、必要?)

なんて思いながらも

(これが、玉置君なんだよなぁ)

妙に納得してしまう良子は、さらに深い深いため息をつくのだった。

「ちょうど良かったよ。俺もヨッちゃんに渡したいものあったからさ」

良子の醸し出すドンヨリ空気に気づくはずもない玉置は、意気揚々と手に持っていた茶色い袋を良子の目の前に置く。

「何?これ」

「ほら、ヨッちゃん、新刊が出るってこの間興奮して話してたじゃん。いろいろ勉強教えてもらったし、世話になったからさ。俺からのお礼」

「……?」

ガサゴソと袋を開ければ、それは良子が先週買い損ねた小説で。

玉置とリエ似が仲良く手に取っていたもので。

「これ、本屋行ったら1冊しかなくてさ、手伸ばしたら別の女の人も同じ本を取ろうとしてて。

んで、ここはジャンケンか?と思ったら、譲ってくれてさ〜」

「……」

「いや〜、いい人で良かったよ」

「……」

「あ?どした?ヨッちゃん?」

良子は、玉置の話に固まるしかなかった。

瞬きも忘れるほどに。

そして、チクンと痛かった胸がほんわり温まるのを覚えたのだった。

「玉置……君」

「あ?何だ?腹減ったか?」

(違う!違うよぅ!ここはもっと色気の必要なとこだよぅ!)

けれど、これが玉置。

そして

「……うん」

と返事してしまう、これが玉置のマブダチ良子。

「じゃあ、家来るか?テレさんが美味いもん食わしてくれるぞ」

「……うん」

良子は玉置にもらった小説をぎゅっと抱きしめると、立ち上がった。

「あー……。また夏になったらさ。プール……行こうな」

玉置は、そんな良子の胸に抱えられた小説に目を留めると、突然何かを思い出したかのように言い出した。

まだ冬真っ只中だというのに。


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