スキ
「え?プール?あ、ビーちゃんと?」

ビーちゃんは玉置の妹で、頭はこんな真っ赤だけど、玉置は人一倍妹想いのいいやつなのだ。

前にも3人でプールに行った事があった。

その時は何かと問題が起こってしまったのだけれど……。

「いや。ふ……ふふふ」

(ふふふ?笑った?)

「ふ、ふふふ、ふた……」

「は?蓋?」

「ふ……ふた、2人で……さ」

「……」

(ふた……り?)

玉置はそれだけ言うと、そのまま良子に背を向け、スタスタと足早に図書館を出て行った。

「え?た、玉置君?」

良子は慌ててその後を追い掛けた。

「玉置君」

やっと追いついた良子が目にしたのは……。

真っ赤な頭よりさらに真っ赤な顔。

「プ、ププププール……楽しい……よな」

追いついた良子にまじまじと顔を覗き込まれた真っ赤は、ごまかすようにそう話す。

(玉置君……ごまかせてないよ)

良子はそっと、胸元にある小説に視線を落とした。

そのタイトルは

『プールでデート〜恋の予感〜』

(これ……)

この本を買った玉置が、このタイトルを見ていないはずがない。

(これは……。まさかまさかの……)

けれど妄想オンリーで過ごしてきた良子には、こんな時の乙女の答え方なんて持ち合わせていない。

いまだかつてない難題にぶつかり、挙動不審になるしかない良子。

「……」
「……」

──ぐぅぅぅぅ〜……。

パニックに陥りかけた良子と茹で蛸玉置を救ったのは、玉置のお腹にいる虎の唸り声だった。

途端に張り詰めた空気がやんわり和む。

(ブ、ブラヴォー!タイガー!あんた必要だよ!)

「……そう言えば、何か話あったんだよな?」

「えっ……」

難題の次の難題。

侮れぬ……玉置きゅん。

ここは最終手段に出るしかない。

「な、なんでもない。お腹空いたね!」

“ザ・ごまかす”

そして玉置に負けないくらいの白目ウインクを向けてみた。

「ヨッちゃん、怖ぇー」

(玉置君に突っ込まれる筋合いはないようッ!)

ここで良子、渾身の一句。

『マブダチも 見方を変えれば 恋の予感?』


*おしまい*

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