スキ
けれど、タクミがどんなに浮気しようとも私はタクミの彼女で。

彼がどんなにタクミを悪く言おうとも、彼はタクミの親友で。

そんな現実を急に思い知った時、私は彼に電話がかけられなくなった。

『私……何やってるんだろ……』

残るのは、自己嫌悪と罪悪感だけ。

タクミが悪いんだ、とタクミのせいにしてしまえばいいのかもしれない。

あんただって同じ事してきたでしょ?って、スッパリ別れて自分の気持ちに正直になればいいのかもしれない。

でも、そこまで我が儘に行動できるほど、ズルくもなりきれなくて。

『好きだよ』

甘い言葉を吐き、手を握るタクミを振りほどけない弱さがある。

それだけ、私は中途半端にずるくて、中途半端に弱くて、寂しかったんだ。

タクミはそんな私の気持ちに気づいていたのか、否か。

突然、

「あいつに女紹介するから」

と、言い出した。

あいつとは、“彼”の事。

「女の方は気に入ってるみたいだから、付き合うのも時間の問題じゃね?」

私は、肩の力が抜けた。

彼氏がいながら電話したのは私。

そして勝手に彼を好きになったのも私。

それで突然電話をやめたのも私で。

タクミの手を離せずにいるのも、私。

どこに彼の未来を壊す権利がある?

硬直した私に、タクミが言った。

「俺、怖かったんだ。お前を好きになればなるほど、お前を失うのが」

「……」

「間違ってるってわかってても、お前を失った時の保険みたいにいろんな女に手出して、気紛らせて」

「……」

「けど、やっぱり、お前しかいないから、俺……」

もう、何もかもわからなくなった。

自分は何を見て、誰を好きなのか。

目の前の男の言葉が、嘘なのか本当なのか。

自分がどうしたいのかも。

わからなくなった。

わからない私は、握る彼の手をそっと離すだけ。

そして、2度と振り返る事はなかった。

私はその日以来、タクミとも彼とも連絡を絶ったんだ。


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