スキ
──バシンッ

私は机にあったノートを投げつけた。

でも大ちゃんは無表情のまま、静かにノートを拾い上げるだけ。

ずるい。

いつもいつもずっと高いところから、何でも見透かしたような瞳で私を見て。

たった4つ年下なだけの私を、子供扱いばかり。

「家庭教師なんか、もういらない」

私は、今度は教科書を大ちゃんに向かって投げつけた。

「……そう」

なのに、やっぱり冷静な彼は小さくため息つくように、落ちた教科書をまた拾う。

お隣に住んでる、大ちゃん。

子供の時から一緒にいた大ちゃん。

大ちゃんは昔から私を、妹のように面倒見てくれていて。

それは私が高校生になった今も変わらない。

でも、私は──。

「勉強したくないのはわかるけどさ、急に下がった成績心配する親の気持ちも考えろよ」

「……」

お母さんが、私の家庭教師をしてくれないか大ちゃんにお願いした時は、正直チャンスって思った。

部屋で2人きりで毎日過ごせば、私がただの妹なんかじゃなく、もう立派な“女”なんだって、気づいてくれるかもしれないって。

そしたら少しは私を恋愛対象として見てくれるかもしれないって。

私だって、成長してるんだもん。

だから、大ちゃんが家庭教師になってから毎日、私はいろんな方法でアプローチを開始したんだ。

肌を露出する服を着てみたり。

友達から借りた香水をつけてみたり。

年上の彼氏がいる友人に、色気のある仕草を学んだり。

胸元を強調させてみたり。

間近で瞳を見つめてみたり。

2時間かけて化粧をしてみたり。

たくさん、頑張ったのに。

先生である大ちゃんは、無反応だった。

そして今日は。

『キスしたくなる唇』というネーミングのグロスで、唇をプルンプルンにしてみたのに。

「んな事してる暇あったら少しは勉強しろよ」

って、呆れたように言うから。

──バシンッ

もう限界に達した私は、ノートを投げつけたんだ。


< 29 / 33 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop