時の砂
桃と大河が肩を並べて長の前に立つと、長は座るよう促した。
「ご苦労じゃったな」
大河は深々と頭を下げる。
対し桃は真っ直ぐに長の目を見つめていた。
「ホッホッ、桃は相変わらずじゃの」
結った髪も髭も眉毛も白髪混じりで、しわくちゃでよぼよぼのじじい。
いつもニコニコと笑っているこのじじいが、桃は大嫌いだった。
長は咳払いをすると、相変わらずの穏やかな口調で言った。
「二人に、明朝から戦に出ることを命ずる」
響き渡った長の声に、穴蔵中がざわめきに包まれた。
長から直々に命を伝えられることは、これまでに一度もなかったからだ。
緊張が走る中、大河は頭を下げたまま、桃はじっと長を見据えたまま、顔色ひとつも変えなかった。