《短編》幼馴染のその後に
「…離してよ…。」


唇を噛み締め、それだけ言うのが精一杯で。


だけどタケルは、あたしの腕を離してはくれなくて。



『…何で泣いてるのか知らねぇけど、頼むから泣くなよ…。』


「―――ッ!」



“タケルの所為じゃん!”って。


言ってやりたかった。


だけど悔しくて、そんなこと言える訳ないんだ。



「…お腹痛いから、トイレ行く…。
だから、離して…。」


顔は上げられなくて。


それだけ言うのが精一杯だった。


ゆっくりとタケルがあたしの腕を離し、それを確認して背を向ける。



『…美咲…。』


ポツリと呟いた声を振り払うように、あたしは再び走り去る。


今度は、タケルは追いかけて来なかった。


だけど、これで良いんだ。



結衣のことが好きなのに、心配なんてしないで欲しかった。


結衣のことが好きなのに、追いかけてこないで欲しかった。


結衣のことが好きなのに、“泣くな”なんて言わないで欲しかった。


“幼馴染だから”ってだけで、こんなことしないで欲しかった。


じゃあタケルは、幼馴染じゃなかったらあたしの心配なんてしないの?


あたしはタケルにとって、幼馴染でしかないの?


そんなことを考え出すと、また涙が込み上げてきて。


何も考えられなくなった頭には、タケルのことばっかで。


そんな自分が、すごく嫌だった。


“もしかしたらあたしは、タケルが好きなのかも”って。


気付いちゃった自分が、すごく嫌だった。


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