《短編》幼馴染のその後に
トイレの個室で、声を殺した。


急に気が抜けたみたいに、涙が溢れてきて。


昨日と同じ。


何で自分が泣いてるのかなんて、まるでわかんなくて。


だけどわかるのは、この涙が嬉しいから出てるんじゃないってこと。


タケルの考えてることがわかんない。


結衣の考えてることがわかんない。


七海の考えてることがわかんない。


あの教室はもぉ、楽しい場所じゃなくなった。


これからあたしは、どこを見れば良いんだろう。


きっとどこを見たって、胸が苦しくなるに違いない。



考えていたら、本当にお腹が痛くなってきて。


次は、課題を出さなきゃいけない数学で。


もちろんあたしは、課題なんてやってなくて。


教室には、タケルが居る。


タケルと付き合ってる結衣が居る。


その二人のことを祝福している七海が居る。


だけど、あたしとタケルは幼馴染で。


結衣とは親友で。


七海とも親友で。


だからあたしは、笑わなきゃいけないんだ。


この個室から出たら、今度は心から祝ってやろう。


自分が悲しい理由なんてわかんないけど、きっと相談してくれなかったからだ。


もっと早く言ってくれてれば、きっとこんなに悲しくはなかったんだ。


うん、そうに違いない。


そう思うと、何だか少しだけ心が軽くなってきた。


だけど何故かモヤモヤとしたものが残り、相変わらず苦しくて。


この変な感じのものの正体が何かなんて、あたしにはわからなかった。


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