泣いた赤色、うたかたの青
「どうして？」

不思議そうな顔をする女の子に、
少年はあの龍神様の深い深い淵には言い伝えがあることを教えました。

「あの淵は、ずっと底におりていくと、龍神様の住む洞穴があって、海とつながっていると言われてるんだ」

その証拠のように、海の潮の満ち引きに合わせて、あの淵は水かさが増えたり減ったりするのです。

不思議な淵なのでした。


「おまえは、その洞窟を通って海からやってきた人魚かもしれない」

と、少年は言いました。

女の子は淵の色をした大きな目をぱちくりとさせました。

「どうして、あたしが人魚だって思うの？」

「だって、おまえの髪の毛も、瞳も、深い深い水の青色だもの。
手も、魚みたいに冷たいし」

少年はひんやりと冷たい手をにぎって言いました。


「もしも人魚なら、記憶がもどったらおまえはきっと、また海に帰ってしまうだろ。
おまえがいなくなったらいやだ。おれはまたひとりぼっちになってしまう」


だからあの淵には近づかないでと少年は頼みました。


「コウタは、あたしがいなくなったらいやなの？」

「いやだ」

「さびしい？」

「さびしいよ」

「ほんとうに？」

「ほんとうだ」

「……うれしい」


女の子はほっぺたを赤く染めて、だったら淵には近づかないと約束してくれました。
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