それなら君を連れて逝く。
地の果てで根を這わす枯れた木から、いつもの様に世界を見下ろす。

大地の亀裂から見えるは、雲。真綿色したそれは、まるで君の様。


柔らかく笑う君

純粋な心を持つ君

美しく唄う君



こんな俺を愛してくれた君…






「行きはしないさ…。」


行けばきっと、触れたくなるから。

君の綺麗なその羽根が、穢れてしまう。



「ノワールっ!」

「‥‥。」


あぁ、解っている。

とっくに気づいてた。

君に名前を呼ばれるだけで、緩む頬に。


「何だ…」


それでも俺は笑わない。


「今日も世界を眺めていたのね!」


なのに君ときたら、そんな事は気にもとめずに、出来る限り俺との距離を縮める。

くしゃりと皺を寄せて笑う顔が幼子の様で、この胸に何とも言えない痛みを与える。

そのまま歪みに足を投げ出し腰を下ろすと、金色の巻き毛がふわりと揺れた。


「違う。見下していたんだ。何の力も無い人間共を…。」

「いいえ、それは違うわ。人間はとても強い力を持っているのよ。」


俺が嘲笑うように言えば、子供のように足を揺らして、真っ直ぐな青い瞳で俺を見上げてくる。強い意思を秘めた瞳で。


「また戯言を。」

「本当よ。彼等は言語、国、文化…色んな違いを持ちながらも、一緒に暮らしているわ。」

「…くだらん。」

「あら、そうかしら?だったら、ノワール…私を連れてって。」

「…」

「そちらに連れてって下さいな。」

「馬鹿だな。」


そんな事をすれば君が穢る。


「ほら、ノワールには無いのよ。人間にはある力が。…いいわ。最後に言ってみたかっただけなの。」


言いながら立ち上がった君は、膝丈ほどの真っ白なワンピースを叩いた。

鮮やかな緑の芝生が風に舞った。
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