それなら君を連れて逝く。
哀しいほど綺麗に笑う君は俺の心を蝕んで行く。


「最後…?」

「神様は知っているわ。私が恋をしていることも、相手が誰なのかも。」

「っ!」


笑顔を崩さずに話し続ける君は、その内容の重さを知っているのか、いないのか。


「ねぇ、ノワールは知ってる?私達はね、人間だったんだよ?」

「遥か昔の話だ…」

「‥‥人間になりたいよ。私…ノワールが好きだよ。」

「俺は、好きじゃない…」

「うん。知ってる。」

「…」


この心臓を抉るような痛みを、人間は“愛しい”と呼ぶらしい。

愛しい、愛しい、愛しい。

何度言えば足りるだろうか?いや、何度言っても足りないのは解りきっている。


「さよなら。」


綺麗に笑った君は、ひどく傷ついた顔をしていた。

瞼を閉じたかと思うと、その身体を歪みに投じた。美しい純白の羽根は固くしまわれたまま。


「おいっ!ブランシュ…」


微笑みながら逝こうとする彼女の腕を掴んで引き寄せた。勢いよく引いた反動で、俺と彼女はバランスを崩して転がった。

今、彼女は荒れ果てた大地と俺に挟まれて…



「やっと、触れた。」


嬉しそうに微笑んでいる。

「‥‥。」


俺はミスを犯した。

彼女の手をとった事ではない…


「羽根が…」

「綺麗な黒だね。」


無邪気に笑うな。
君に黒は似合わない。


「違う、違う、違う…綺麗な白だった。」

「綺麗よ。貴方と同じ色。…ねぇ、泣かないで?」


俺が犯したミス…

深い紫色をした淀んだこの目から、生温い液体を零したこと。

もう、隠しきれはしない。

何故、君はそんなに美しい?
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