黒の扉【短編集】
女は答えなかった。
ただ、口の端で笑っただけ。それだけで十分だ。

女は意識を無くし、僕の腕に倒れ込む。僕は女を抱き締め、漆黒の長い髪を横に流した。

髪に隠されていた、女の白い首の後ろに、爪で浅く僕の印を残す。


白に赤がうっすらと滲む。

これでいい。

あとは女がうまくやるのを、上から楽しめばいい。



僕が宙に浮かび上がったと同時に、女は気が付いた。意識を失っていたというより、ぼぅっと突っ立っていた様な感覚の筈だ。

勿論、僕と話をした記憶も無いだろう。
女に残っているのは、彼女への殺意だけ。今から彼女を殺しに行くという思いだけだ。


案の定、女は記憶の抜け落ちている部分など、気にもせず、彼女の家に向かって歩いて行った。

僕は、女の上を、ふわふわとついて行く。
うっかり声を出して、気付かれてしまわない様に、細心の注意をはらった。

本当はおかしくてたまらない。大きな声で、笑い転げたい。


でも、まだだ。
僕の課題が終わるまで。


女が彼女を殺すのを、見届けるまでは…

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