黒の扉【短編集】
『…なんだ。これ。』

僕は、道の隅に落ちていた、小さな紙切れを拾った。所々破れ汚れた、水色の紙だ。
その紙には、字を覚えたての様な、辛うじて読む事の出来る文字で、こう書いてあった。

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サンタさんへ。

プレゼントはいらないです。
だけど、ママにあいたいです。


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(サンタに手紙?)

ふと、口元が緩む。

普通の子供なら、日頃買って貰えないような物を、ここぞとばかりにお願いするのに…


そして、本気でサンタの存在を信じているのだろう。手紙の最後には、ご丁寧に自分の住む家まで書かれていた。


びゅう、と冷たい風が吹き、僕は肩をすくめる。

僕はその紙を、くしゃりと潰し、ポケットに突っ込んで歩き出した。


サンタなんていない。

母親にも会えない。

いや。
何十年か経てば、会えるのかもしれないな。



去年のクリスマス。

この子の母親は、星になった。

空まで連れて行ったのは僕だから、間違ない。

(どんな子なんだろう?)

ふと、そんな思いが頭を過ぎる。

いつもは、残された人間に、興味なんて湧かなかった。
今回だって、何故気になったのか分からない。

あの日の…水色にグレーを足した様な、薄曇りの空と、薄汚れたこの手紙とが、同じ様な色をしているからだろうか。


僕は雪の中をずんずんと歩く。

手紙の差出人の家を目指して。


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