黒の扉【短編集】
少女の家を目指しながら、僕は何をやっているのだろうと、ふと思う。

少女にあった所で、どうするんだろう。

『ママは死んでもういない、会えないんだよ。』とでも言うつもりなんだろうか。

手紙が道に落ちてたなんて知ったら、悲しむだろうな…


そんな事を考えながら、自分のやっている『仕事』を思うと、なんだか矛盾しているようで笑えた。


その時。

―バンッ!

少し先で、扉の開く音がした。

雪に足を取られながらも、一人の少女が、僕の方へと近付いて来る。


『ねぇ。風邪ひいちゃうよ?』

あぁ。
この子だ。

深緑の目と、はっとするほど綺麗なブロンドの髪。

母親によく似ている。


『僕は大丈夫だよ。』

そう言って笑うと

「天使さん?」

と、少女が聞いた。


僕が天使?

まさか。

真逆の仕事をしているんだ。
どんなに頑張っても、天使になんてなれやしない。

『ははっ。違うよ。よく言われるけどね。』

ウインクをしてから、ポケットを探る。

『落とし物を届けに来たんだ。』

「…なぁに?」

僕はポケットから、少女が書いた手紙を取り出して渡した。

手紙を広げた少女の肩が、小刻みに震えだす。


「これ…私が書いたものだわ!サンタさんが、落として行っちゃったんだ!」

顔を上げた少女の目には、瞬きしたら零れ落ちてしまう程の涙が溢れていた。

「どうしよう!お手紙忘れたら、もうお願い聞いて貰えないよ!!」



ほら。

こうなる事は、分かっていたじゃないか。

少女は、ひどく悲しむと。


そして…

僕には少女の願いが叶えられるという事も。



『そのお願い…僕が叶えてあげようか?』


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