黒の扉【短編集】
「えっ?」

『僕はサンタじゃ無いけどね。』

僕は何を言っているんだろう。母親に会わせてあげるなんて。
それは、少女の死を意味するのに。

「本ト!?」

案の定。少女は僕の言葉に目を輝かせる。

『うん…でもね?
ここには帰ってこられなくなるんだ。』

「じゃあ…パパとは会えなくなるの?」

『暫くはね。』

僕は意味あり気に言った。少女の気が変わるのを、心の中で願いながら。


だが、少女は一瞬寂しそうな顔をしただけで、すぐに笑顔になった。

「それでもいい。パパにはコートがいるもの。ママは、一人でいなくなったから、きっと寂しいと思うんだ。」

そう言って、開いたままのドアを見る。

『にゃあ。』

玄関には、自分を主張するかの様に鳴く猫が一匹、ちょこんと座っていた。

…仕方ない。
言ってしまったからには、後には引けない。

どのみち、少女はこの一年、苦しんだろう。
だったら、母親の元へ連れて行った方が、少女にとっては幸せなのかもしれない。

僕は自分に、そういい聞かせた。


『そっか。じゃあ、行こう。』

「うん!」


僕は少女の右手を取ると、雪の中をずんずんと歩いて行く。

猫のコートが、悲しく鳴いている。猫は勘がいいからな。きっと僕の正体に気付いているに違いない。




この少女が、何処に向かっているのかも。


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