黒の扉【短編集】
強い力で引っ張られ、僕は立たされた。激痛がする場所に目をやると、羽根のある男の指が見える。

華奢で白くて、美しい。見とれるほど綺麗なその指に、どうしてこんな力があるのか…

『痛いだろう?人間は弱いからな。仲間になれば、痛みからも開放されるというのに。なぁ?』

男は囁く様に言った。僕は大声で叫びたいのをこらえ、男を睨み付ける。

男はにやりと口だけで笑い、僕から離れた。

地面に崩れ落ちながら、僕は左腕を擦る。
腕には、男の細い指跡がくっきりと残っていた。

『その跡は消えない。永遠にな。』

僕は立ち上がりながら、もう一度、男を睨み付ける。

男の綺麗な顔立ちに、心奪われそうになる自分に腹が立った。

『また会おう。』

男が言うと、僕の体は浮き上がり、崖の方へと飛ばされた。

僕は、底の見えない暗闇へと落ちて行った。










「…!」

足が落ちる感覚に、僕は飛び起きた。

ここは崖の底じゃない。僕の部屋だ。

「夢…。」

そう呟いて左腕を擦る。

そこにはくっきりと、細い指の跡が残っていた。






     *end*

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