黒の扉【短編集】
僕は、女の後ろに音も無く降りると、声を掛けた。


『こんにちは。』


女は立ち止まり、ゆっくりと振り返る。

女と目が合った瞬間。僕は笑みがこぼれた。

勿論、作り笑いなんかじゃない。この女の瞳には、絶望と悲しみが見える。
予想以上の事を、やってくれそうだ。


『…はい?』


女は、突然声をかけられたのにもかかわらず、警戒する様子は無かった。道でも聞かれるくらいの事だと思っているのだろう。


『お願いがあるんだ。』


僕は笑顔のまま話す。

いや。正確には、笑いが込上げて来て、それを押さえるのに必死だったと言う所か…。


『お願い?』


『うん。お姉さん、僕の課題手伝ってよ。』


そこで初めて、女の顔色が変わった。少しだけ、眉間にシワが寄る。


『…悪いけど。手伝ってあげられないわ。』


声のトーンも、若干下がったか。


『なんで?』


僕はしつこく食い下がる。諦めるつもりはない。絶対、面白くなりそうだ。


決めた。



僕の『課題』は
この女だ。


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