黒の扉【短編集】
「なんで…って。私、用があるのよ。それに貴方の事、よく知らないし。」


そりゃ、そうだろう。
知らない奴から、課題を手伝えなんて言われて、快く引き受けるのなんてまず居ない。

僕は女に、一歩づつ近付きながら話す。


『用って…何処行くの?』


女は、僕が近付いただけ下がる。
かなり警戒している様だ。


「ちょっ…何?警察呼ぶわよ!」


警察なんて来た所で、大して問題ではない。
だけど、面倒な事になるのは、ごめんだ。

僕は、素早く移動して女の顔を覗き込む。


「ひっ…!!」


僕の行動に、危険を察知したのか、女は横に移動し、電柱に張り付いた。素早く左右を見渡し、誰か通る人間が居ないかを探している。

僕は耳に神経を集中した。この道に、足音は聞こえない。誰も来ない。
僕は、込み上げる笑いを堪えるのを止めた。


「誰も来ないよ?」


僕は女に近付き、瞳を覗き込む。恐怖のあまり、女は電柱に張り付いたまま、目を見開く。


僕は、人間のこの顔が一番好きだ。とくに、美人が恐怖に怯える顔。目を見開き、血の気の失せた、青白い顔。



ゾクゾクした。



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