光る道
第六章

約束

あの夜の事は、なかった事にしよう…



私は決めた。



相手が覚えてないのに、私だけ覚えてても仕方ない。


忘れよう。お互い好きと言った事も、唇の感触も…



それからしばらく、私たちは顔を合わせなかった。



私にとっては、気持ちを切り換える、いい時間だった。




ある日、急にカレーが食べたくなり、作ってみた。



出来上がったころ、玄関の方で音がした。



彼に会うのは久しぶり。


普通に話そう。


何もなかった時のように…


「おかえりー。 あっ、井上さん、こんばんは!」



薫の後ろに立つ、マネージャーにも気付いた私は、笑顔で二人に声をかけた。




「・・・ただいま・・・
 カレーの臭いがする…」


薫が入り口に立ったまま、つぶやく。



「うん! 久々に食べたくなって作った。
晩ご飯食べた? これ食べる?」




「腹減った… 食う!」



薫が笑顔でそう言って、部屋へ行く。



「井上さんも、どうですか?」



「いや… 僕は…」



「食ってけば? 家に帰っても一人なんでしょ?」



薫が部屋から顔を出しながら言う。



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