光る道
そしてアンコールも終わり、彼は客席に深々と頭を下げて去っていった。




会場が明るくなり、まだ熱気が冷めぬなか、みんなが帰り支度を始める。




「楽しかったですね!」



隣の親切な人に声をかけられる。



「そうですね!」



私も笑顔で返す。



人の流れにそって入り口まで来ると、



「どっちに帰ります?」



と聞かれた。



「駅の方に…」




「私もです。じゃあ一緒に行きましょう。」



と言われ、一緒に歩く事になった。





「私たちの方、見てくれませんでしたね。」



歩きながら、私が言う。



「そうですね。でも後ろの人たちは、小さくしか見えないんだし、あんなそばで見られただけ、幸せと思わなくちゃね!」



「でも… 本田さんが近くに来た時、うつむいてませんでした? 手を伸ばせば届きそうだったのに…」



つい、思ってた事を言ってしまった。




「あぁ… いざ近くに来られると恥ずかしくなって… 変よね… 
それに触られたら、彼は嫌だと思うの。 彼が困るような事はしたくないの。」




笑いながら彼女は言う。





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