零~ZERO~
信号で停まる度、私に
『寒くない?大丈夫?』』
と、2人で買った、ひざ掛けを、かけてくれたり、

『これ食べて。』
『これ飲んで。』
と色々、気を使っていた。


それでも私は、何も話したくなかった。
"今までの私の気持ちを、どう思ってるの?"
"急な、その態度は何なの?"
怒りに震えていた。


無言のまま、あてもないドライブ。
私は内心、
"何処に行くのだろう。"
と思っていた。


元々、無口な方だけど、喧嘩や、気まずくなると、すぐ黙り込む詞音。
何も話さす運転している。


気が付けば、付き合い始めの頃、毎日の様に来ていた海岸に着いた。


車を停めるなり、詞音は泣き出した。
私の名前を何度も呼び、
『ごめんなさい。』
を繰り返していた。


詞音は、今まで2人で避けていた話題に触れ始めた。
詞音の、おばあさんの事だ。

詞音と私の喧嘩の原因だったのは、大抵おばあさんの事だった。
80歳過ぎの、おばあさんの、これからの事で、いつも喧嘩していた。

詞音は、結婚して、おばあさんの面倒を見て欲しい。
私には、それは難し過ぎる事。出来ないと思っていた。


いつも、お互いの気持ちが平行線だった。

詞音は、
『やってみないと分からないじゃん。』
と、言っていたが、それはやっぱり、自分の肉親だから言える言葉で…。
"じゃあ、逆の立場だったら?"
喧嘩になりたくないから、私はまた、言葉を飲み込む。


まだ20代半ばの私には、重た過ぎる事だ。
私の親も、何を言うか分からない。
そんな生活、それこそ家政婦だ。


詞音は、母親代わりになって育ててくれた、おばあさんを、施設に入れるのは頑なに嫌がっていた。
おばあさんだって嫌だろう。
その為に、親戚の家に近いマンションも買ったのだし。

母親代わりになってくれた人と離れて暮らすねなんか嫌な気持ちは、全てじゃないけど分かる。


でも私は、どうしても"YES"を言えなかった。
もし言っていたなら、とっくに結婚していたかもしれない。
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