零~ZERO~
私の顔を見ると、一瞬驚いた様だが、すぐにその顔は怒りに変わっていた。

無造作に、自分のカバンを部屋に投げ入れ、無言で自分の部屋に入ろうとする。


私は必死に詞音の足を掴んで止めた。今離れたら、もう絶対に話しが聞けない。
何で、こうなったのか理由が聞けない。
私から聞かないと、詞音は答えてくれない。


それでも、詞音は私の手を振り払おうとする。

『帰れよ。』
『嫌だ。』
『帰って下さい。』
その繰り返し。
おばあさんが、困っているのを横目で見ながら、そんな押し問答をしていた。


人の家だから、勝手に上がる事も出来ない。

おばあさんが、
『詞音も仕事で疲れていますから、今日は帰っていただけますか?』
でも、今回の私は引かなかった。
大泣きしながら、詞音の足に、しがみつきながら、
『今帰ったら、もう彼に逢えないかもしれないんです。』
とにかく必死だった。
この手を離してはならない。


私は、
『とにかく、あそこの公園で話そう?外で話そう?』
佳嘉と一緒に、ひたすら詞音を待っていたあの公園だ。

『嫌です。』
詞音の敬語が悲しかった。

『じゃあ、とにかく座って話しをしようよ。』
何とか無理やり座らせる事が出来た。


詞音は、私に目を合わせてくれない。ずっと横を向いて、疲れたと言わんばかりの、ため息をついている。


おばあさんは、気を使って、
『じゃあ、私は奥に行きますから…。』
そう言って、詞音の為に食事を作り始める音がし出した。
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