零~ZERO~
『私、何か悪い事した?』
『…。』
詞音は、ずっと黙っている。
しばらく、沈黙が続いた。
『怒ってるの?』
『怒ってるよ。』
『どうして?』
『メールで、"また何か隠し事?"って書いただろ。
何だよそれ。』

以外だった。
私にとって何気ない言葉で詞音を傷つけていた、怒らせていた。
でも、"約束"を交わしたのに…。
どうして…?

『思った事は言う。隠し事はしないって約束したよね…?』

また、詞音は黙っている。

暫くして詞音は、
『もう疲れたんだよ。仕事も、ばあさんの事も。』


たった2日前の詞音とは、別人に見える。
この人、何言ってるの…?

『私、悪い所あったら直すから。言って?私、別れたくないよ。』
泣きすぎて、メイクがグシャグシャだ。


私は、めげなかった。あんなに長い事一緒に居たのだから、別れるなんて想像がつかない。

『どうして黙るの?何でも話すって言ったじゃない。』
『俺は、思ってる事を口に出して言えないんだよ!』
怒鳴られた。
『じゃあ、どうしてこの前、逢いに来てくれたの?』
『寂しかったからじゃない?』

耳を疑った。

この人、頭がオカシイ。
私みたいに病んでいる。私の手におえない。
そう思ってしまった。

『…じゃあ、一緒に病院行こう?』
『…何処の?』
『私と同じ病院。連れて行ってあげるから…。』

私が、海岸で詞音に打ち明けた、心療内科の事だ。
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