零~ZERO~
父が休みの日、たまに父が何処にも行かず、家に居ると、母は気を使って、用も無いのに、独りデパートの屋上で時が流れるのを待っていたりしたと言う。

私が母に、
『何処に行くの?』
と聞いた時、
『教えない。』
と言っていた時がある。多分、そんな事をしていたのだろう。


家の両親は、母が父より5歳上だ。
私から見て、いつも母が家を守り、父を子供の様に叱っている様に見えていた。


だけど、違った。
母は、自分が歳で働けないからなのか、家族を食べさせてくれる父を、いつも、たてていたのだった。
どんなに遅くなろうが、何時に帰って来るのか分からないのに、必ず父の為に、布団を敷いて待っていた。


母は、たまに
『私は、家政婦か?』
などと言っていた。
あの頃の自分を思い出す。状況も似ている。


いつの間にか、両親の寝室は、別になっていた。

父は、いつもの寝室で眠り、母はリビングのソファで眠っていた。

眠ると言っても、母は、眠れない日々を送っていた事だろう。


私は昼間、仕事で居ないし、家で独りきり、訳の分からない父の行動に気がふれる思いだっただろう。


ついに、父が無断で帰って来なくなった。

母は、父の枕に手首を切って、血を付けていた。

『朝から出掛けて、夜遅くまでかかる用事なんて、誰かと一緒じゃないと過ごせないわよ。
バイアグラ見つけたし。』
そんな事を母は言っていた。

自分の親が、そんな事…。考えるだけで気持ちが悪い。


母は、私に言った。

『私、しばらく家出るから。』
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