零~ZERO~
父が独りきりになりたいと言っていたから。
父の好きにさせよう。
そう思ったのだろうか。
行き先も教えずに、母は家を出た。


父は、私には普通に話してくれる。

だけど、そんな父が憎かった。
好き放題やって、遊びまわって、母が居ないと何も出来ないくせに、家の物が何処にあるかすら分からない、料理も出来ない。
それで離婚したいと言う。

そんな父の身勝手で、母は出て行った…。
いつ帰るかも分からずに。


当時、家には"ココ"という犬が居た。
ココは、母に1番なついていた。
私は、気が気じゃなかった。

父は、
『気にしないで、好きな時間に帰っていいよ~。』
なんて言ってるけど、突然居なくなった母を、ずっと玄関で待つココと、母が生きているのか、心配で心配でならなかった。

母は、幸い携帯を持っていたので、私は毎日電話をした。

母は、いつも私に、
『パパ、ママの事何か言ってる?』
と、聞いてくる。

『何も…。』
と言うと、落ち込んでいた。
自分は必要とされていないんだ。と、思っていたのだろうか。


ある時、いつもの様に電話をした時、強い部分しか見せなかった母の声が、随分沈んでいた。
声が聞き取りにくく、私には、泣いている様に聞こえた。

一方的に、電話は切れた…。


私は、ただ生きて帰って来てくれる事を願うしか出来なかった。
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