零~ZERO~
詞音は、仕事を終えると、車をすっ飛ばして毎日逢いに来てくれた。
逢う場所は、デート中に見つけた、2人の、お気に入りの海岸だった。
毎日、少しでもいいから逢いたいと、お互いに思っていた。

詞音は当時、゙パルサー゙という速い車に乗っていたのだが、古い車で毎日通勤したり、私に逢いに来てくれたりした為、ついに壊れてしまった。

だから、会社の人に笑われながら、会社の軽トラで逢いに来てくれた。
助手席はいつも、私の服が汚れない様、タオルを敷いてくれた。

当時は、そんな気遣いが出来る人だった。

詞音と色々話している中で、
彼には両親が居ない事、
父親とは親子の縁を切った事、
今は、祖母と2人で暮らしている事、
数ヶ月前に、彼女と別れ、仕事中に見つけた四つ葉のクローバーを、財布に大事にしまい、何か幸せがおとずれないかなと思っていた事などを話してくれた。

その幸せが、私との出逢いだと言ってくれた。
< 3 / 84 >

この作品をシェア

pagetop